中級者をめざすブログ

ゆるふわな大学生のブログです。

処分性わからないマンの前回講義に関する言い訳

はじめに

 何のことやらわからないことになってもアレなので書いておくと、労災就学援護費に関する最判平成15年9月4日判時1841号89頁【行政百選Ⅱ-157事件、行政法判例集Ⅱ-22事件】と、紋別市の老人福祉施設移管に関する最判平成23年6月14日裁時1533号24頁【行政法判例集Ⅰ-134事件、平成23年度重判解行政法6事件】を対比して、なぜ前者の(解釈手法の)射程が後者に及ばなかったのかという事柄に関する(とても真面目な)エントリです。

 過日の某講義でこの辺についてコメントをしたのですが、発言を行った状況もあって何を言っているかがいまいち分かりにくい状態になってしまったので、改めて自分の理解を整理する意味でもエントリにしてみました(Twitterに放流するとこわいコメントが集まりそうでこわいし、何なら前者については社会保障判例百選の評釈*1をフォロワーの某先生が行っていることに気づいてしまった)。

最判平成15年9月4日判時1841号89頁

 事案等は省略する。就学援護費に対する給付拒否決定に処分性が認められるかという点が問題となり、結論としては処分性を肯定している。

 本件の判断手法に関する画期的な点としては、従来の(裁)判例は処分性を肯定するための根拠が法律にあることを要求するような流れがあったところ、就学援護費の根拠・性格を法律から読み取る一方で、その具体的仕組みを通達から認定し、「制度の仕組みにかんがみれば」、「保険給付と同様の手続」で行われる援護費の仕組みを法が規定しているとして処分性を肯定した点にある*2。すなわち、処分性判定に関して直接規定の置かれた法律ではなく、法律からの委任を受けて定められた通達を最大の手がかりにしたということにあるといえる。

 なお、その判断の中では就学援護費が労災保険給付(労働者災害補償保険法上に規定)を補完する目的を有しており、「保険給付と同様の手続により、被災労働者又はその遺族に対して労災就学援護費を支給することができる旨を規定している」とした上で、保険給付拒否決定に対しては不服申立て規定が設けられていることから、従たる就学援護費にもそうしたものが認められるべきであり、処分性についてもまた肯定すべきという論証がなされている。

最判平成23年6月14日裁時1533号24頁

事案

 紋別市は、老人福祉施設を運営したいと考えていたが、その具体的な運営を私人に委ねたいと考えていた。そのような方向で運営を行う場合、2つの方法が考えられる。

  1. 指定管理者制度地方自治法244条の2第3項以下)の利用:施設を「公の施設」のまま、私人に運営を委ねる。
  2. 施設譲渡:当該老人福祉施設について、普通財産とした上で(「公の施設」を廃止した上で)、民間に譲渡する。

 紋別市は2を選択し、条件として「少なくとも20年間、老人福祉施設として運営すること」という条件を付した。老人福祉施設として運営させたいのであれば1を選択すればよいとも考えられるところであるが、原審(札幌高判平成21年11月27日裁判所ウェブサイト)によると「……Aの民営化に当たっては,指定管理者方式と施設譲渡方式とが検討された上で,3年から5年の指定管理期間ごとに事業者が変わる可能性のある前者の方式を避け,長期的に同じ事業者がAの経営を継続することができる効果を期待して,後者が選択されたことが認められる。」とあり、この点に2を選択した理由が認められる。

争点

 本件では、このような制度のもとで行われた老人福祉施設の運営者募集に応募した者に対してなされた不決定の通知(本件通知)について処分性が認められるかが問題となった。

裁判所の判断

 原審は、前述の平成15年最判を拡張的に利用して処分性を肯定した。すなわち、指定管理者制度と本件(2)は、いずれも民営化を狙いとするものであるとした上で、期間を限定して管理を委ねる指定管理者制度について(すら)地方自治法上公募が要請されているのだから、土地を無償で譲渡し、より長期にわたり施設管理を委ねる本件(2)については、なおのこと公募が地方自治法上要請されているということで、両制度は同様の手続に基づいて行うべき、というものである*3

 これに対して最高裁は、本件通知を、当該契約を締結しないこととした事実を告知するものに過ぎないとして、「公権力の行使」性と具体的規律性の双方を否定することで処分性を否定した。

なぜ平成23年最判は平成15年最判の判断手法を援用しなかったのか?

 ここが前回の発言内容(前置きが長すぎる!)。かなり乱暴にまとめると、この2件の差異は「法令間の距離」にあったのだと考えられる。

 平成15年最判における労災就学援護費については、法律レベルの記述こそないものの、労働省労働基準局長通達(昭和45年19月27日基発第774号)において、労働者災害補償保険法23条1項2号において政府が行うことができる労働福祉事業として設けられたことが明らかにされている(その点が、最高裁において「法第3章の規定に基づいて行う保険給付を補完するために」と判示されたのだと考えられる)。すなわち、定めの置かれている場所こそ異なるものの、保険給付と労災就学援護費はいずれも同じカテゴリの者を対象としており、かつそれぞれの制度に関する定めを置いた法律・通達が、通達によって直接に結び付けられているといえる。

 これに対して平成23年最判でその関係性が問題となった2制度のうち、指定管理者制度は前述の通り地方自治法上に定めのあるものであり、あくまで公物である「公の施設」を対象としているのに対し、普通財産の譲渡はもはや公物ではないものを対象としており、かつ両者をつなげる法令レベルでの根拠は存在しない。

 このように2判決を見比べると、各判決で問題となっている2制度間の法的繋がりの濃淡に差異があることが認められる。平成15年最判は明らかにしていないが(だからこそ「大雑把*4」だとされているのだろうが)、関連法令をも考察すべき場面は両制度が「実質的に類似している」場面まで拡張されるのではなく、あくまでも法律・通達レベルで両制度が「関連」している場面に限定されるということになるのだと考えられる(だからこそ平成15年最判の大雑把さは「よい大雑把さ」と捉えられるのだと思われる)。そのため、そのような法律(・通達)レベルでの接続の手がかりが得られなかったと判断された平成23年最判では平成15年最判の判断手法が援用されなかったのだと考えられる。

 

 ちょっとわかったような、わからないような感じになった。

 

追記(2022.5.31)

 平成23年最判の原審が「被控訴人においては,民営化の一手法である指定管理者方式においてすら公募を原則としていることに鑑みれば,同じ民営化のために,より慎重に受託事業者を選定する必要のある施設譲渡方式においては,公募によることが地方自治法の解釈上要求されているものと解することができる。」と判示しているが、そもそも地方自治法上、指定管理者をどのように選定するかは未定であり、条例が具体化しているに留まることから、施設譲渡方式にについて公募制度が「望ましい」とは言えても、「地方自治法の解釈上要求されている」とは言えないのではないかというコメントをTwitter上でいただいた(引用するのが筋だろうけれど、ここでは控える)。

 確かに制度の立て付け上、「地方自治法の解釈上要求されている」というのは言い過ぎのように思える...何とか平成15年最判の画期的な手法が使えないかとやり過ぎてしまったのだろうか。

 

 それと、平成23年最判は「そもそも指定管理者制度を参照する必要もなく本件は解決できる」ということを判決文に示しているという話を聞いたが、どうも判然としない。

*1:社会保障判例百選(第5版)116-117頁。

*2:太田匡彦・行政判例百選(第7版)327頁。

*3:大橋洋一地方自治判例百選(第4版)112-113頁が解説としては優れている。

*4:太田匡彦・行政判例百選Ⅱ(第7版)327頁。大橋洋一は太田のこの記述を本判決に対する批判と捉えているようだが、おそらくそうではない。